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最高裁判所第三小法廷 昭和39年(オ)720号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人野間彦蔵の上告理由第一点について。

論旨は、相続により本件土地を占有した被上告人先代善助の占有の始めにおける善意、無過失を認定し、被上告人主張の所論取得時効を認容した原判決を非難するものである。しかし、善助の所論善意に関する原判決の判断は、その挙示する事実関係から正当として肯認できる。また、本件土地に対する善助の占有の開始は相続によるもので取引によるものではなく、しかも善助の先代猪又清之亟の本件土地の占有状態は原判決説示のごとき外形をもつものであり、本件土地は昭和八年の津波によつて流失した後に住宅適地造成組合によつて造成されて原判決説示のとおり清之亟所有地と一枚となつた土地であり、しかも右宅地造成の図面、右造成組合の関係文書が清之亟から善助にのこされている等原判決挙示の事実関係のもとでは、被上告人先代善助が本件土地を自己の所有であると信ずることはけだし当然のことと考えられ、善助が本件土地の登記簿を調査しなかつたことをもつてたやすく過失があつたものということはできないとし、善助が本件土地の占有のはじめ無過失であつたとする原判決の認定もまた肯認することができる。

原判決に所論の違法はなく、引用の判例は本件に適切でない。論旨は、原審の認定にそわない事実を主張し、独自の見解に立つて、適法になされた原審の事実の認定、それにもとづく正当な判断を非難するに帰し、採るを得ない。

同第二点について。

被上告人の所論請求を認容すべきものとする原判決の判断は正当として肯認できるし、本件記録を検討しても、右請求をもつて訴の利益を欠くものと認めるべき訴訟資料は存しない。原判決に所論の違法はなく、論旨は、独自の見解に立つて正当な原判決を非難するに帰し、採るを得ない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄)

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